Lesson5 (Houseparty New Orleans Style)

KB:(ピンポーン)フェスくーん、ごめんくださーい!

Fess:おっ、ねぇちゃん、今日はラッキーやで。はよ入り。

KB:おじゃましまーす。ラッキーって何?なんかあるの?・・・

(部屋に入ると、ミーターズのドラマー、ジガブーが座っている)

LOVEジガブー!!
KB:う、うわぁぁぁぁぁぁ!!ジガブーだぁー!きゃーーーー、かっこいいぃぃ!きゃーー、しびれるぅぅ!!じがぶーー!ドラム叩いてぇぇぇぇっ!ぎゃぁぁーーーー!!

Zigaboo:・・・・・・・・

Fess:・・・・・・・・

KB:きゃーーーー、こっち向いたぁぁ!きゃぁぁーーーー!!

Zigaboo:・・・・・・・・

Fess:・・・・・ねぇちゃん、うるさいで。

Zigaboo:フェスさん、これ誰です?

Fess:君のファンなんやて。

KB:きゃーーー、しゃべったぁぁ!!

Fess:もうエエっちゅうねん。ねぇちゃん、わしら、もうちょっとしたら出かけんとあかんのや。

KB:えーーーー?なんでぇ?ジガブーのドラム聴きたいよぉ。

Fess:また今度や。これからメンフィスまで行くんや。パーティーやで、パーティー。

KB:いいなぁ、パーティーかぁ。私も行っちゃダメ?

Fess:車、乗れへんで。スヌークスの車、軽四やろ?

Zigaboo:そうですね。あとジョージも乗るし。

KB:えっ?ジョージ・ポーターも来るの?

Fess:いやいや、ジョージはジョージでも、ジョージ・デイヴィスのほうや。あいつもベーシストやけどな。

KB:なんだ、つまらん。でも、スヌークスくん、目見えないでしょ?どうやって運転するの?

Fess:ねぇちゃん知らんか?スヌークス、目見えへんでも運転できるんやで。

KB:そんな、ばかな。

Fess:いやいや、ほんまやって。ツアーバスとか、全部あいつの運転で移動するんやで。

KB:またまたぁ。いくらなんでも、そんなことできるわけないでしょ?

Zigaboo:いや、ほんとですよ。この前バンドで移動中に車の中で休憩してたら、サイドブレーキがはずれたみたいで突然車が動きだしたんです。みんな寝てたんですけど、後部座席にいたスヌークスさんが運転席に飛び移ってブレーキ引いてくれたから助かりました。

Fess:へぇ、あいつすごいな。

KB:ジガブーがしゃべった・・・

Fess:そらジガブーもしゃべるわ。

KB:でも、スヌークスくんって本当に謎な人だね。実は目、見えてるんじゃないの?

Zigaboo:どうでしょうねぇ?左手のポジション変える時、指でパパパッて一瞬でフレット数えてるように見える時がありますけど。

Fess:数え間違えたら終わりやな。どうりで、よぉ音はずす思もた。

Zigaboo:でも、あんまり手元をじっくり見ながら演奏するギタリストもいないですからね。

KB:この前のアール・キングは、むちゃくちゃ見てたけど。

Fess:あいつは特別やで。そない見んでもエエやろ、っちゅうぐらい見とるな。

スヌークス2度目の来日(撮影KB)
KB:そういえば、初来日したパークタワーの時スヌークスくんブカブカの靴履いてて、ギター弾きながらリズムに合わせてずっと足でストンプ踏んでたの。目の前でずーっとカパカパ足が動いてたから、思わず手で押さえて動き止めたらギターも止まったよ。

Fess:それはウソやろ!


KB:いやいや、ほんとだって。その後すぐジョージ・ポーターが慌ててスヌークスの背後に近付いて、ねじ巻いたら、また弾きだしたんだから。

Fess:そんなん言うんやったら、わしも知っとるで。スタジオでリハーサル中、メンバー全員がスヌークスとギターを間違えてて、ずっとスヌークスがギタースタンドに立て掛けられとったって、知っとるか?

Zigaboo:もう、2人ともいい加減にしてくださいよ!

Fess:さあ、本物はどれだ!




Lesson5

 今回のレッスンでは、プロフェッサー・ロングヘア−のアルバム『Houseparty New Orleans Style』を取り上げます。

今回の教材『Houseparty〜』
これは、アルバム『Mardi Gras In Baton Rouge』と同じセッションからの音源で、71年のバトンルージュ録音と72年のメンフィス録音が収録されています。メンフィスでのメンバーは、本文中のフェス、ジガブー、スヌークス、ジョージ・デイヴィスです。バトンルージュではフェスのカード賭博仲間のシバが、メンフィスではミーターズのドラマー、ジョセフ・モデリステ(本文に登場するジガブー)がドラムを叩いており、2人のドラミングを聴き比べるのも面白いのですが、ここでは、両セッションでギターを弾いているスヌークス・イーグリンとフェスを中心に、全体を通して聴いてみましょう。

 スヌークス・イーグリンはニューオリンズの盲目ギタリストで、1000曲を超すレパートリーを持つことから『人間ジュークボックス』とも呼ばれています。50年代後期にはアコースティックギター弾き語りスタイルでフォーク・ブルースを、60年代にはエレキギターに持ち替えてインペリアルからR&Bなどを録音。その後も数々のセッションに参加し、87年以降はブラックトップから数枚のアルバムを発表しています。そのギタースタイルは非常に多種多様で、ブルース、フォーク、ゴスペル、C&W、R&B、ファンクに何故かフラメンコまでに及び、どんなものでもスヌ−クス流に消化してしまう強烈な個性と卓越したリズム感で、『ギターを持ったプロフェッサー・ロングヘアー』とも呼ばれています。ソロ・アルバムについては、Reference Dataのコーナーを参考にしてみてください。

こっちも買おう『Mardi Gras In Baton Rouge』
 さて、このアルバム『Houseparty New Orleans Style』は87年に上記の2セッションからの選曲で発表され、その後それに漏れた残りの作品にホーンを加えて発表されたのが91年のアルバム『Mardi Gras In Baton Rouge』です。どちらもセッション性が高い作品で、完成度という点では問題がありますが、この時期音楽活動から遠ざかっていたフェスとスヌークスが、互いの個性をぶつけあいながら伸び伸びとプレイしている様が爽快な快作です。

 スヌークスのギターを聴くにも、お薦めは後者の『Mardi Gras In Baton Rouge』で、音が良くホーンが加わり華やかで、選曲もバラエティーに富んでいます。それに比べると前者は地味な印象ですが、まとまりの良さとフェスの当時の姿を据えるには適した作品です。

 では、順に聴いていきましょう。

 2「ゴーン・ソー・ロング」はフェスお得意のインスト曲ですが、いつものピアノ・フレーズでソロをとった後、左手バッキングのリフがズシーンと強くなります。おそらく、スヌークスにソロをまわすつもりだったようですが、盲目のスヌークスにはアイコンタクトが通用するはずもなく、弾いていいのか迷いがちな、なんとも中途半端なギターがちょこっと入っています。フェスも「こりゃいかん」と思ったのか、すぐ自分のソロに戻しています。この辺りは、まだお互いに牽制しあって様子を伺っているようです。

 3、7、9あたりのピアノの音を聴くと、これが少し前まで栄養失調で歯が抜け、まともに立つこともできない状態だったとは思えない素晴らしい演奏です。初期の力強さはなくとも、丸く深みがある豊かな音色。この音だけで、胸にジンとくるものがあります。ここに、人間の根源的な生命力が息衝いていることが感じられます。

 5曲目の「501ブギ」では、2曲目の反省を含めて(セッションの曲順と収録順が同じであるはずはありませんが)フェスの「いえぇえーー!」というかけ声を合図にスヌークスにソロをまわしています。

 6曲目に入ったとたんドラミングが急変しますが、これがジガブーのドラムです。先入観なく聴いていても、ドラムの変化は誰の耳にも明らかです。「ティピティーナ」でこんなドラムを叩くとは随分斬新ですが、アンサンブルという点からすると、このドラムはどうでしょうか?

 7曲目は前述通り、その素晴らしいピアノの音色に圧倒されます。

 8曲目は、夫に浮気を隠す奥さんの言い訳が楽しい歌詞の「キャベッジヘッド」ですが、フェスの歌には生彩が欠けます。なぜ収録されることになったのかも、疑問を持たざるを得ない演奏ではないでしょうか。

 9曲目はとても良い演奏で、スヌークスらしいバッキングとフェスのピアノが良くあっています。シバの叩くリムショットもいいアクセントになっていて、中盤以降のスネアワークもなかなかです。

 続く「ビッグチーフ」は歌無しのインストで、全体に縦ノリがきついことが気になります。

 11「チェリーパイ」は、いい演奏だとは言えませんが、フェスの歌の微妙な音程が何故か心を打ちます。歌に合わせたわけではないと思いますが、ギターソロのチョーキングの音程もかなり微妙です。賛否両論あるかとは思いますが、なぜ選曲に漏れず収録されることになったのかが分かるような気もします。

 12「ジャンコ.パートナー」でのギターソロはスヌークス・フレ−ズ満載で、フェスの歌もファンキーです。

 続く13曲目は、スヌークスのギターをフィーチャーしたジャム・セッションです。この曲がこのアルバムのアクセントになっていることは確かですが、これについては賛否両論あるのではないでしょうか。私の周囲でも、このアルバムの話になると必ずこの曲のことが話題にのぼります。スヌークスらしい攻撃的で疾走感のあるギターは素晴らしいのですが、フェスの左手が完全にノリをはずしています。ドラムのシバも、ジガブ−並みのスネア・ワークを聴かせますが、アホっぽさもジガブー並みです。同じようなことをやっていてもシバのドラムがジガブーにかなわない理由は、おそらくバランスの悪さでしょう。左右のバランスはもちろんですが、ジガブーの場合、上半身と下半身のバランスが絶妙です。シバにあのパワフルなバスドラがあれば・・・と、とても残念です。とはいえ、フォンキーなフェスのことですから、この曲のスヌークスとシバのロッキンな演奏にさぞかし御機嫌だったことでしょう。

 さて、通して聴いてみていかがだったでしょうか?楽器は違えど何かと対比して語られることの多いフェスとスヌークスですが、確かに共通点も多いように思われます。

 まず、2人とも非常に卓越したリズム感を持っています。プレイを流して聴いていても、ふと「あれ?今の何?」と思わず聴き返さずにはいられない、トリッキーなリズム・プレイが飛び出します。ベーシックな部分は非常にしっかりしていて、ともに「ベーシストいらず」のプレイヤーとも言えるでしょう。スヌークスは学生時代にフラミンゴスというバンド(アラン・トゥーサンも在籍)をやっていましたが、ここにはベーシストどころかバリトンやチューバなどの低音ホーンもおらず、ベース・パートはスヌークスがギターで演奏(もちろん、コードもメロディも同時に)していたのだそうです。言うまでもなく、フェスは左手でベーシストを殺してしまう程の人ですから、このあたりも2人の共通点と言えるでしょう。

ゲイトのギター音色は美しい
 もうひとつ、この2人のプレイに共通するのは悲しいかなミスの多さです。  目が見えないスヌークスには仕方がないことですが、2人ともアウト・オブ・ノートの連発です。その理由はそれぞれ異なっているとは思いますが、フェスの場合、そんなことは問題にしていないのではないかと思います。事実、フェスの魅力はそんなものとは無関係で、聴いていてもミスタッチなど全く気になりません。それに加えて、圧倒的な存在感を持つ音色。これこそが、フェスのピアノの持つ説得力です。残念なことにスヌークスのギターには、この音色がないように思います。このアルバムだけでは分かりづらいと思いますが、時々ひどく安っぽい音を出していたり、汚い音で演奏をしていたりする時があるのです。そういった点では、アルバム『Rock 'N' Roll Gumbo』で共演したゲイトマウスのほうがフェスに近いような気もします。ゲイトマウスの音楽に対する崇高なプライドとその美しいギターの音色は、フェスに共通するものを感じます。

 いずれにせよ、この2人のいきいきとした生命力溢れる演奏に魅力を感じる人は多いと思います。音楽の解釈は色々あれど、本当に心を打つ理由は案外シンプルなものなのではないでしょうか。

 さて、本文の「本物はどれだ?」ですが、ジガブーが話している車運転の話が実話だといわれています。ニューオリンズの音楽情報誌『オフ・ビート』に掲載されたインタビューで本人が語っているとのことですが、本当なのでしょうか?ちなみに、あとの2つは作り話です。スヌークスさん、すいませんでした!


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